『アラン・グライヨの息子』。その肩書は何をするにも彼に付いてまわった。だがそれは仕方のないことだ。何しろアラン・グライヨは、クローズ・エルミタージュの神様とも称される偉大な醸造家なのだから。しかし、マキシムはその名に臆することなく、自身の道を一歩ずつ踏みしめた。ディジョンで醸造学を修めた後、ブルゴーニュのデュジャック、カリフォルニアのターリー・ワイン・セラーズ、リオハのテルモ・ロドリゲスの下で貪欲に学んだ。現代的なピュアな果実と明確なテロワールの表現の両立というマキシムのワイン造りの主軸が、この広範な経験により育まれたことは明らかだ。
クローズ・エルミタージュに戻った彼は、父の庇護の下でワインを造るのではなく、我が道を行く挑戦者となることを決めた。2003年、クローズ・エルミタージュに5haの畑を購入し、ドメーヌ・デ・リゼを設立。続く2004年、約8千本のみ生産した初ヴィンテージは周囲を驚愕させた。当時27歳のこの若い醸造家が手掛けたワインは国内外から高い関心を集め、パリ随一のワインショップや英国最古のワイン商などに大きく取り上げられた。
現在、マキシムはリゼで自身のスタイルを追求する一方、アラン・グライヨの醸造責任者も務めているが、父のワインは父のワイン、とその独自のスタイルを尊重している。
卓越したクローズ・エルミタージュというフィロソフィを胸に、ただ求めるのはクオリティのみ。モダンでピュアな『動』のリゼと、クラシックで堅固な『静』のアラン・グライヨという、対象的なふたつのドメーヌのワインを、どちらもこの地のトップ生産者となるレベルで造り上げる手腕は恐るべきものだ。マキシム・グライヨはもはや父の陰に隠れる存在ではない。北ローヌのワイン造りの歴史に、その名をしっかりと刻む造り手なのである。
グライヨ家の男には、挑戦者として気質がその遺伝子に刻まれているのかもしれない。
マキシムの父、アラン・グライヨは、クローズ・エルミタージュの神様と謳われる存在だが、元々ワイン造りとは無縁の人生を歩んできた。しかし、農業エンジニアとしての職業柄、様々な造り手と交流を深める中でワインへの情熱に目覚め、1985年にクローズ・エルミタージュにて自身の醸造所を設立。さらには、このアペラシオンの牽引する造り手として、確固たる名声を地位を築くに至った。
偉大な父にならうように、マキシムもまた、挑戦者の道を選んだ。この地のトップ生産者の跡取りという立場に甘んじることなく、彼自身のワインを造るために、新たに自らのドメーヌを設立したのである。父に並び、マキシムの醸造家としての人生に大きな影響を与えたもう一人の人物である母の名にちなみ、そのドメーヌは『リゼ』と名付けられた。

マキシムが所有する5haの畑はボーモン・モントゥーの村の近くにある単一畑だ。クローズ・エルミタージュの最南東の地区に位置する。植樹は最も古いもので1980年代。土壌は砂利や石からな沖積土で、非常に水はけがよく、粘土が少ない。そのため、明確なミネラル感を備えたアロマティックで洗
練されたワインが生まれるのだが、2004年に彼が取得した際、畑はほとんど手入れがされておらず、本来のポテンシャルが発揮できない状態にあった。以前の所有者は収穫したブドウを地元の協同組合に売るのみで、畑には慣習的に除草剤や殺虫剤が散布され、枯死したブドウは放置され、土はトラクターによりひどく踏み固められていた。
健全な畑からその土地の個性を引き出したワインを造るために、マキシムは畑の復興に全力を尽くした。除草剤等の化学薬品は使用せず、定期的に土を耕し、ブドウの仕立て直しや再植樹を行った。また、区画別に栽培を管理し醸造することで、各区画の個性や改善具合を見極め、見直すべき点の詳細な分析も並行して行った。もちろん、収量も前とは比べ物にならないほど低く制限しており、平均35-40hl/haである。
世界各地の銘醸で学んだワイン造りをベースに自身の道を確立したマキシムの醸造方法は、父のものとは異なる。アラン・グライヨのワインは全房発酵、ルモンタージュ、タンクでのマロラクティック発酵、古樽での熟成と伝統的な手法で造られるのに対し、マキシムのアプローチはよりモダンだ。ブド
ウの約90%を除硬し、低温浸漬後のアルコール発酵では丁寧なピジャージュで抽出を行う。マロラクティック発酵はバリックで行い、新樽も10%ほど使用している。
マキシムは父のアランから独立し、異なる手法でワインを手掛けているが、彼らの関係は反目からは程遠い。父は息子の挑戦を静かに見守り、時には助言を与えている。息子はその配慮に感謝し、父に敬意を表している。この恵まれた環境により、マキシムの類稀なセンスと才能が一層磨かれたのは間違いない。

設立数年にして、マキシムはワイン・スペクテイターから、アラン・グライヨのライバルと評され、ギガルやシャーヴといった大御所ドメーヌと並び、北ローヌのトップ生産者の一人にも選ばれた。
自らの道を探求して早10年、生き生きとしたピュアな果実に満ちた彼のワインは、さらに洗練され、土地の個性と偉大なワインが持つ力強さを示している。近年、マキシムはリゼに加え、ドメーヌ・アラン・グライヨを父から譲り受けた。しかし、彼はこのふたつのドメーヌを混同することなく、それぞれのスタイルを尊重し、ワインを手掛けている。モダンでピュアな前者と、クラシックで堅固な後者のどちらにも、クローズ・エルミタージュの指標となるクオリティがある。